100年以上支持されるモンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育は、乳幼児期の子どもを観察し、その成長に見合った環境を整えることから始まります。早期幼児英才教育として誤解されることもありますが、モンテッソーリ教育の本質は、「子どもが生まれ持つ自立への成長を助け、そのための環境を用意する」ことであり、知識を無理に詰め込む教育とは全く違います。乳幼児期の子どもたちには様々な「敏感期」が次々に現れます。「敏感期」とは、ある時期、ある事柄に子どもが特に敏感になり執着し、自ら吸収し成長していく自己教育能力が発揮される時期を言い、言語の敏感期、秩序の敏感期、感覚(五感)の敏感期、数の敏感期などが挙げられます。「今、何に興味を持っているのか」「何をしたいのに出来なくて困っているのか」「なぜそのような行動をするのか」などを、子どもの行動から読みとり、そこに現れる「敏感期」を理解することが大切です。「敏感期」の子どもは能力や知識をどんどん吸収していくので、親や教師は子どもをよく観察し、子どもと接しながら、適切な環境を用意することが必要です。

 

モンテッソーリ教室の環境には、「教具」や「用具」と言われるいくつもの活動対象が用意されています。子どもは手や体を動かしながら能力を身につけていくので、活動の対象物が必要になるというわけです。教師は一人ひとりの子どもに必要な活動を見極め、その活動へと導きます(モンテッソーリではこの「活動」を「お仕事」と呼んでいます。このように、大人による「子供の観察」はモンテッソーリ教育の大きな特徴の一つと言えます。

 

重要なのは、一人ひとりの子どもに敬意を持ち、偏見や先入観を捨て、他の子どもと比較することなく、その子の欲求や成長の過程を理解しようとする姿勢です。そして、子どもたちの個性を見守りサポートすることが大切なのです。

マリア・モンテッソーリについて

1870年(明治3年)にイタリアで生まれたマリア・モンテッソーリは、裕福な家庭で育ちましたが、小さいころから弱者を愛する心を持っていました。イタリア初の女性医師としてローマ大学を首席で卒業し、大学付属の精神科で知的障害者の子どもたちのために働き始めます。障害者に対する人格や人権がきちんと認識されていなかった当時、治療どころか隔離状態で放置されている子どもたちに強い思いやりを持って接し、懸命に世話をしました。そして、知的障害のある子どもたちにも備え持つ能力や可能性があることに気づき、子どもたちを観察し、知的障害児の教育法を研究しながら、その発達に必要な教具の開発を始めます。彼女の教育を施した子どもたちの中には、知能テストで健全児の平均以上の結果を出す子どもも現れ、マリア・モンテッソーリの名はたちまち世に広がっていきます。

 

さらに、知的障害児だけでなく健全児も含めた子どもの教育について関心を深めていったマリア・モンテッソーリは、医師から教育者に転身。1907年、37歳の時、ローマのスラム街で悲惨な生活を送る子どもたちのための保育施設、「子どもの家」を設立しました。教育を受けたことのない子どもたちと生活し、道徳や規律を教えながら知的好奇心が自発的に現れるような教具・用具を開発。当時としては珍しい、子どもサイズの机と椅子を家具職人に作らせ、子どもが安全かつ自由に動けるように、環境を整備しました。その結果、それまで、自分勝手で落ち着きがなく乱暴だった子どもたちが見違えるようになり、集中して学習する姿が見られるようになると、国内外からたくさんの見学者がこのスラムの学校を訪れました。

 

マリア・モンテッソーリの教育法とは、子どもたちと過ごす経験に基づく独創的なもので、子どもの潜在的な力を引き出していく教育法と、子どもの権利・自由意思を尊重する子ども中心の教育哲学は、たちまち世界中で浸透されていきます。その後、マリア・モンテッソーリは、世界中で「子どもの家」の設立に携わり、さらに、愛と平和を実践する社会運動家として活躍しました。かくして、世界中の教育者たちが彼女の功績と哲学を高く評価し、ノーベル平和賞候補に3回もあげられますが、全て辞退しました。1952年、81歳の生涯を閉じるまで、人類の平和と幸福のための教育に愛と情熱を注いだ彼女の姿は多くの人々の心を打ち、世界中の人々に多大な影響を与えました。

モンテッソーリ教育の今

誕生から100年以上を経たモンテッソーリ教育は、世界で最も普及されている教育法(ユネスコの調べ)となるまで普及しました。現在は、脳学者によってモンテッソーリ教育の効果を脳科学的に実証されています。幼稚園のみならず、米国では大学まで一貫したモンテッソーリ教育を受けれる学校もあります。中国では、政府のバックアップで、モンテッソーリ教育の普及が急速に進めらています。日本で初めてモンテッソーリ教育が伝えられたのは、1912年頃(明治45年、大正元年)だと言われています。戦前の個人はすべて国に従属すべきといった全体主義的な風潮の中、個を尊重するモンテッソーリ教育は受け入れられませんでした。戦後はカトリック系の団体を中心に取り入れられるようになり、「アクティブ・ラーニング」がブームの今、子どもたちが自発的に学ぶ姿勢を基本原則に置くモンテッソーリ教育は、今後もさらなる普及が期待されます。

モンテッソーリ教育の環境作り

マリア・モンテッソーリが重視したのは、子どもが好奇心や興味を持って自発的に活動できる環境を整えることでした。子どもが自由に動きながら学習する環境があれば、自発性を身につけ、知的好奇心や潜在能力が自然に現れることを発見したのです。その「環境」とは、子どもが、その発達段階に合った適切な作業と遊びを繰り返しながら、自由で創造的な行動ができるような環境です。教具や用具に求められるのは、子どもが扱いやすい軽くて小さなもので、また、好奇心をそそる良質で魅力的なものです。それらを、子どもが手に届くところに並べれば良いのです。モンテッソーリの教室では、家具や掃除用具も全て子どもサイズを用意し、鏡や絵画も低い位置に飾ります。すべてにおいて、子ども目線で整えられた環境が、子どもの自発的成長を支えるとマリア・モンテッソーリは強調しています。

モンテッソーリ教育の5分野

モンテッソーリ教育の教育課程は5つの分野で構成されています。

(1)日常の生活

着替え、掃除、食卓の準備・後片付、あいさつ・礼儀、植物や動物の世話、「切る」「折る」「縫う」などの日常生活に必要な行動の練習。生活の基礎となる衣食住の方法を習得するという実践面だけでなく、第2の脳と呼ばれる手や指先の運動の発達を促し、「自分で出来た!」という達成感・満足感から子どもたちは自信をつけ、自立心・独立心を育みます。使用される教具(用具)は子ども用サイズに作られた本物を使用します。

(2)感覚教育

子どもの感覚は6歳までに発達するとモンテッソーリは語っています。感覚教育では、子どもの視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚などの感覚機能を鋭敏にさせ、知覚と認知力の発達を促すことを目的とします。感覚教育で使う教具は、言語教育や算数教育で使う教具の練習にもなるため、モンテッソーリの教室では、感覚教育をとても大事にします。

(3)言語教育

「言語の敏感期」と呼ばれる言語発達の時期に、「話す」「書く」「読む」ことをそれぞれ学んでいきます。砂文字板、絵合せのカードや50音のカードなどの教具を使用し、語彙を増やし、豊かな表現力の基礎を育てます。

(4)算数教育

モンテッソーリの算数教育の特徴は、具体的な経験をしながら、感覚的に「数」を理解することにあります。単に公式を暗記したり、問題をパターン化して練習を重ねたりする、詰め込み式の算数教育とは全く異なる切り口の「数」を楽しむ学習スタイルです。「数の敏感期」は6歳が山場なので、小学校入学前に数に触れ、数で楽しむ経験が大切になります。また、モンテッソーリ教育の数教育は、物事を分析し、論理的な思考ができる数学的頭脳を育成します。

(5)文化教育

歴史・地理・生物・文化などが含まれます。生命の神秘や文化的な教育を多岐にわたり行い、世界の多様さを知り、様々な違いや人の生き方を理解し、グローバル社会で生きる子どもたちをサポートします。